従業員の不注意でも会社が賠償?「安全配慮義務」の基本とリスク回避策
「従業員が操作を誤って怪我をした」
「注意していたのに設備を壊された」
現場で労災事故が起きた際、経営者として「従業員の不注意なのだから、自己責任ではないか」と感じるようなケースがあります。そのような場合、経営側の感覚としてはある意味で自然な反応かもしれません。しかし、日本の法律実務においては「従業員に不注意がある」という理由で会社が責任を完全に免れるケースは、ほぼありません。従業員にかなりの不注意(怠慢、悪ふざけ)があったとしても、企業の責任は認められてしまいます。
労災事故は大なり小なり、どこの事業所でも発生します。しかし、一歩間違えれば、数千万円規模の損害賠償や、企業の社会的信用を揺るがす大事態に発展しかねないのが恐ろしいところです。
本記事では、意外と知られていない「会社の責任範囲」の正体と、万が一の際に会社を守るための「過失相殺」の考え方を分かりやすく解説します。
✅ 法務セミナーをオンラインで無料開催中です。
なぜ「本人のミス」で発生したのに会社の責任か?労災保険と安全配慮義務の法的根拠
結論から申し上げますと、従業員の初歩的な不注意による事故であっても、原則として会社はその責任を問われることになります。
これには大きく分けて2つの法的な側面があります。
① 労災保険の仕組み
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務中に発生した事故に対して支払われます。
ここには「無過失責任の原則」があり、たとえ従業員に不注意(過失)があったとしても、業務との関連性が認められれば給付の対象となります。
② 安全配慮義務
会社は、従業員に対して「安全配慮義務」を負っています。これは、単に「危ないから気をつけて」と言うだけでなく「従業員がミスをすることも想定した上で、安全な労働環境を整える義務」です。
会社が安全配慮義務を負うのは、会社の体制や指揮命令に「過失」があった場合です。過失がない限り、会社は責任を負わないのですが、裁判上、「無過失」として責任を免れるためには、事故の発生を想定した複数の対策を講じていたと評価される必要があり、そのような対策が万全に講じられているのは非常にまれです。
原則として会社の責任が問われます。

会社が100%負けるとは限らない?賠償額を抑える「過失相殺」の適用条件と事例
このような法律の仕組みを知って、不公平だと感じられる経営者もおられるのではないでしょうか。
しかし、「会社が100%責任を負わなければならない」わけではありません。
状況によっては、「過失相殺」という考え方で賠償額が減額されることもあります。
例えば、以下のようなケースです。
- 会社が厳重な安全指示を出し、皆がそれを守っていたのに、特定の従業員だけが完全に無視して作業をした
- 着用を義務付けられている保護具を、その日に限ってあえて着用せずに作業した
このように、従業員側に重大な過失がある場合、その程度に応じて損害賠償額が減額される可能性があります。
注意
過失相殺が認められたとしても、どの程度減額されるのかは正確な予想が困難です。
裁判例では5~10%にとどまるものもあれば、80%以上減額された例もあります。
裁判では「人間はミスをするもの」という前提で、そのミスをカバーできなかった会社の管理体制が厳しく問われる傾向にあります。
損害賠償における過失相殺

【保存版】事故後の後悔を防ぐ!経営者が今すぐ実施すべき安全体制構築の3要諦
事故が起きてから後悔しないために、従業員のミスを前提とした「安全体制」を構築しておくことが不可欠です。以下の3点を定期的にチェックしてみてください。
安全教育・危険予知トレーニング(KYT)を定期的に実施しているか?
「入社時に教えたから大丈夫」ではなく、反復的な教育が法的にも「義務を果たしている」という証拠になります。
ヒヤリ・ハット事例を収集・分析しているか?
「大きな事故」の裏には必ず多くの「ヒヤリとした経験」が隠れています。これを吸い上げ、対策を講じる仕組みが必要です。
物理的な安全対策は万全か?
センサーの設置、ガードの取り付けなど、従業員が「うっかり」しても事故にならないハード面の対策ができているか確認しましょう。
従業員のミスを前提とした安全体制を構築することが重要

「従業員を守ることは会社を守ること」法的トラブルを未然に防ぐ経営判断を
労働法や安全配慮義務の話を聞くと「会社ばかりが損をする」と感じてしまうかもしれません。しかし、これらは「従業員を守ることは、結果として会社を守ることにつながる」というメッセージでもあります。
万が一事故が起きてしまった際、迅速かつ適切な対応ができるよう、日頃から労務管理を整えておくことが大切です。
「自社の安全管理体制が不安」「実際に事故が起きてしまい、どう対応すべきかわからない」といったお悩みがあれば、一人で抱え込まずに、ぜひお気軽にご相談ください。
私たちは、経営者の皆様が安心して事業に専念できるよう、法律の側面から全力でサポートいたします。
無料ウェビナーのご案内
TMG法律事務所は、中小規模の企業で起こりやすい問題やその対処、回避方法を的確にお伝えするセミナーを開催しています。
まずは無料セミナーにご参加ください。中長期的に、経営者・管理職のあなたを力強く支える弁護士がここにいます。