中小企業のハラスメント窓口義務化、対応できていますか?放置リスクと5つの対策
皆さん、こんにちは。弁護士の吉田浩司です。
弁護士というと「難しい」「怖い」「料金がわからない」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。私は、そうした弁護士の悪いイメージを払拭し、企業の経営者の皆様が「気軽に相談できて安心できる」パートナーでありたいと願っています。
さて、本日は中小企業・零細企業の経営者や管理職の皆様に向けて、非常に重要なお話をします。
※本記事は、ウェビナー『ハラスメント相談窓口の実務対応』の要約版です。動画で詳しく学びたい方は、記事末尾のリンクから無料で視聴できます。
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テーマは「ハラスメント相談窓口」です。
令和4年(2022年)4月から、パワーハラスメント防止法(改正・労働施策総合推進法)が中小企業にも完全義務化されました。
「うちは零細企業だから関係ない」「大企業の話だろう」と思っていたら、大変なことになるかもしれません。
この法律は、単に「窓口を作ればOK」という簡単なものではありません。設置から運用まで、企業が果たすべき「4つの義務」が定められています。
本日のウェビナー記事では、20年の実務経験から見えてきた「現場で本当に役立つ実践的な知識」を、専門用語をできるだけ使わず、具体例を交えて解説します。
放置は危険!パワハラ防止法で中小企業に課された「4つの義務」とは?
まず、法律が企業の皆様に何を求めているのか、全体像を掴みましょう。
企業には、ハラスメント対策として、大きく分けて以下の4つの義務が課せられています。
方針の明確化と周知・啓発
「わが社はハラスメントを絶対に許さない」という方針を全社員に明確に伝えること。
ハラスメントを行った者には厳しく対処する(処罰する)ことを就業規則などに明記し、全員に知らせること。
相談窓口の設置
社員が「これはハラスメントかもしれない」と感じた時に、安心して相談できる窓口を設置し、それを社員全員に知らせること。
相談への迅速かつ適切な対応
実際に相談が寄せられたら、迅速に事実関係を調査し、適切に対応(判断・処分)すること。
プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談したことによって、その社員が解雇されたり、配置転換されたりといった不利益な扱いをすることを固く禁止すること。
相談者や関係者のプライバシーを厳格に守ること。
この中でも、特に中小企業の経営者が頭を悩ませるのが「1. 方針の周知」と「3. 相談への適切な対応」です。
加害者より高額賠償?ハラスメント対策不足が招く「使用者責任」のリスク
「法律で義務化されたのはわかった。でも、正直なところ、日々の業務で手一杯だ」
「窓口を作らなかったからといって、すぐに罰金でもあるのか?」
これが本音かもしれません。
たしかに、現状では「窓口を設置しなかった」こと自体への直接的な刑事罰や罰金はありません。
しかし、これが最大の「落とし穴」です。
直ちに罰則がないからと放置していると、いざハラスメント事案が発生した時に、会社が“致命的な”法的リスクを負うことになります。
【判例解説】会社の対応不足で賠償額が跳ね上がる「法的リスク」の実態
近年の裁判例では、ハラスメントを行った加害者本人よりも、会社の「対応のまずさ」を理由に、会社側により高額な賠償を命じるケースが続出しています。
会社の対応不足によって被害が拡大したと認定された例

A事件(大学)
- 概要:学生が講師の尻を触る(悪ふざけ程度)。講師から運営法人に調査指導の要求があったが、法人が「事実関係がわからない」と対応を放置。
- 本人:110,000円
- 会社:880,000円(加害者の8倍)
B事件(病院)
- 概要:医師が看護師に繰り返し身体接触。医療法人が「確証がない」と言い逃れ。
- 本人:330,000円
- 会社:770,000円(加害者の2倍以上)
裁判所は「会社はハラスメントを防ぐ体制を作っていましたか?」「相談があった時、ちゃんと対応しましたか?」という点を非常に重視します。
対策を怠っていると「会社が対応しなかったせいで被害が拡大した」と認定され、加害者本人よりもはるかに重い責任を問われるのです。
精神障害で労災認定も。企業の「不適切な対応」が決定打になる理由
さらに恐ろしいリスクが「労災」です。
ハラスメントが原因でうつ病や適応障害などを発症した場合「業務上の災害」として労災認定されることがあります。
ここで知っておいてほしいのは、ハラスメントには「強・中・弱」のレベルがあることです。
- 強: 誰がどう見ても違法な行為(例:胸や腰を繰り返し触る、人格を否定する暴言を繰り返す)。
- 中・弱: 一度きりの性的な発言、悪ふざけ程度の身体接触。
この「中・弱」レベルのハラスメントだけでは、通常、労災認定(精神障害)には至りません。
しかし、ここが重要です。
被害者が「中」レベルのハラスメントを会社(窓口)に相談したにもかかわらず、
- 会社が「それくらい大したことない」と放置した
- 相談したことで、逆に上司から睨まれて仕事がしづらくなった
- 会社がまともに調査せず、被害者が泣き寝入りするしかなかった
このような「会社の不適切な対応」があった場合、その「不適切な対応」自体が業務上のストレスを与えたと評価され、結果として労災が認定されてしまうことがあるのです。
労災が認定されれば、その後の高額な損害賠償請求(慰謝料)は避けられません。そして何より「あの会社はセクハラで労災が出た」という事実は、会社のイメージを地に落とします。
【実践マニュアル】中小企業がやるべきハラスメント対応「5つのステップ」
では、具体的に何をすればよいのでしょうか。
厚生労働省のフローは、大企業を前提としており、中小企業には複雑すぎます。
そこで、中小企業の現実に即した「5つのステップ」で解説します。
ステップ1:就業規則の改定と周知(無料資料の活用法)
「ハラスメントは許さない」という姿勢を形にします。
最優先事項:就業規則の改定
「セクハラ、パワハラを禁止する」「違反者は懲戒処分の対象とする」という条文を必ず入れましょう。これが無いと、問題が起きても処罰の根拠がなく、会社は手も足も出せません。
資料の配布・研修
自社で独自の資料を用意できない場合、厚生労働省のサイトにある無料の資料をダウンロードして配るだけでも構いません。「会社は本気だ」と伝えることが第一歩です。
ステップ2:相談窓口の設置(社長・役員の兼任はOK?)
経営層から独立し、社外に相談担当者がいることが理想ですが、従業員10人~50人以下の会社では現実的ではありません。
現実的な担当者
- 社長・経営者(最も多いパターンです)
- 社長の右腕となる役員
- 顧問弁護士や顧問社会保険労務士
誰が担当であれ「相談窓口はここです」「秘密は厳守します」と明記したリーフレットや社内掲示を必ず行い、全社員に知らせてください。
ステップ3:相談受付とヒアリング(「事実」と「推測」を分ける)
ついに相談が寄せられました。ここが最初の正念場です。
「秘密は絶対に守る」と約束する
まず、相談者が安心して話せる環境を作ります。
事実(Fact)と推測・感情(Feeling)を分ける
相談者は興奮していたり、緊張していたりします。「ひどいんです」「許せないんです」という感情と「いつ、どこで、誰に、何をされた(言われた)のか」という客観的な事実は、聞き手が意識して切り分ける必要があります。
- × 悪い聞き方:「それはひどかったですね…」
- ◎ 良い聞き方:「『ひどい』と感じたのは、具体的に何を言われた時、何をされた時ですか?」「その言葉があなたに向けられているとわかったのはどうしてですか?」
証拠を確保する
LINEやチャットのスクリーンショット、録音データなど、客観的な証拠がないか必ず確認します。
ステップ4:公平な調査(関係者と加害者のヒアリング)
被害者の話だけで判断してはいけません。必ず「公平な調査」を行います。
関係者(同僚など)へのヒアリング
可能であれば、周囲の人からも話を聞きます。
最重要
話を聞いた同僚には「この件は絶対に他言しない」という誓約書(守秘義務)にサインをもらえるとよいです。噂が広まると、調査の続行自体が不可能になることがあります。
加害者(とされる人)へのヒアリング
順番は最後です。被害者の話や証拠を固めてから聞くことで「そんなつもりはなかった」「覚えていない」という言い逃れを防ぎます。
必須
どんなに加害者が悪いと思っても、加害者側の言い分は“必ず”聞く必要があります。これ(弁明の機会)を怠ると、後で「不当な処分だ」と加害者側から訴えられるリスクがあります。
ステップ5:判断と処分(迷ったら弁護士へ)
集まった事実と証拠に基づき、会社として「どう判断し、どう処分するか」を決定します。ここが最も難しく、法的な判断が伴います。
軽すぎる処分(口頭注意のみなど)
→ 被害者が「会社は何もしてくれなかった」と絶望し、会社を訴える。
重すぎる処分(いきなりの解雇など)
→ 加害者が「処分が重すぎる」として、不当解雇で会社を訴える。
このバランス判断は、まさに専門家の領域です。事実関係の整理がついた段階で、必ず顧問弁護士などに相談し「今回のケースではどの程度の処分が妥当か」を確認してください。
弁護士が回答!セクハラ・不倫疑惑など「よくある相談事例」と解決策
最後に、窓口によく寄せられる2つのケースと、その対応法をお伝えします。
ケース1:「上司のAさんから、下品なからかいや暴言を繰り返されている」
対応
- まず、録音データやチャット履歴がないか確認します。
- 他の女性従業員にも、同様の被害がないか(プライバシーに配慮しつつ)ヒアリングします。
- 常習性・頻度・内容の悪質性を確認し、事実を固めた上でA氏にヒアリングします。
判断
常習性が高く、過去に退職者まで出ているようなら、重い懲戒処分(出勤停止や降格)も検討します。一度きりの発言で本人も反省しているなら、厳重注意とハラスメント研修の再受講、といった対応になります。
注意点
処分後も、A氏が被害者に逆恨みして嫌がらせをしていないか、定期的にウォッチする必要があります。
ケース2:社内不倫の通報はハラスメント窓口で対応すべきか?
対応
これはハラスメント窓口が対応すべきことでしょうか?
判断の分岐点
- ① 会社の「外」でのこと(プライベート)
仕事終わりに二人がどこで会っていようと、それは会社の管理外(プライベート)です。社会倫理的にけしからんことであったとしても、会社が調査したり、介入したりする義務も権利もありません。 - ② 会社の「中」でのこと(職場の風紀)
もし、社内で二人が親密すぎる言動をとり、他の社員が「目のやり場に困る」「働きにくい」と感じている場合。あるいは、休憩室などでわいせつな行動に及んでいる場合。
これは「職場の風紀を乱す」問題であり、会社が介入すべきハラスメント(環境型セクハラ)に該当します。
判断(②の場合)
事実確認の上、両者に厳重注意。いきなり解雇は重すぎますが、他の社員への影響を考え、どちらかを(不利益にならないよう配慮しつつ)配置転換し、物理的に接触を減らすといった対応が必要になります。
まとめ:離職率低下にも繋がる。「信頼」への投資としてのハラスメント対策
ハラスメント対策は、確かに中小企業の経営者にとって「また仕事が増えた」と感じる、負担の大きい義務です。
しかし、これは「やらされている」義務であると同時に、会社を守る「盾」でもあります。
公正な手順を踏んで調査し、適切な対応をすることは、被害者から「会社が守ってくれなかった」と訴えられるリスク、加害者から「不当な処分だ」と訴えられるリスク、その両方から会社を守ってくれます。
「給料さえ良ければ社員は満足する」という時代は終わりました。
今の労働者は「安心して働ける環境か」を常に気にしています。具体的には、「パワハラ、セクハラが頻繁に起こる職場か」「もし問題が起こった場合に、会社が毅然と対応して、社員を守ってくれるか」を非常に重視しています。
ハラスメント対策をきちんと行う会社は、社員からの信頼が上がり、結果として離職率の低下にも繋がります。これは、会社の未来を守るための「投資」なのです。
もし「自社の就業規則が不安だ」「実際に相談が来てしまったが、どう動けばいいかわからない」ということがあれば、どうか一人で抱え込まず、私たちのような専門家を頼ってください。
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