「パートだから社会保険不要」はもう危険!適用拡大時代の加入義務と会社の守り方
「うちは正社員じゃないし、週3日のパートさんだから社会保険には入れなくて大丈夫」
「本人が扶養内で働きたいと言っているから、手続きはしていない」
もしそう考えている経営者の方がいたら、今すぐその運用を見直してみてください。思わぬ形で会社に大きな負担が生じるおそれがあります。
法律上、社会保険の加入義務は「パート」「正社員」といった肩書きや、本人の希望で決まるものではありません。
そして今、この分野は大きな転換期にあります。2025年に成立した年金制度改正で、これまで「小さな会社は対象外」とされてきた部分が、今後10年をかけて段階的に見直され、最終的にはほぼすべての会社が対象になっていくことが決まりました。「うちは小規模だから関係ない」と言えた時代は、もう終わりに近づいています。
もし年金事務所の調査などで「加入漏れ」が発覚した場合、最悪のケースで過去2年分に遡って保険料を徴収されます。本人が支払えない分も含め、会社が高額の保険料を全額立て替えるという、経営リスクを負うことになるのです。
本記事では、労務事件を多く手掛ける弁護士の視点から「知らなかった」では済まされない社会保険の加入条件と、会社と優秀なスタッフを守るための「正しいリスク対策」を分かりやすく解説します。
手遅れになってから後悔しないために、自社の管理体制に穴がないか今すぐチェックしてください。
【扶養内の希望は通用しない】パートは社保不要という思い込みが会社を危険にさらす
「うちは正社員じゃないし、週3日くらいのパートさんだから社会保険(健康保険・厚生年金)には入れなくて大丈夫だよね」
もしそのように一律で判断しているとしたら、それは非常に危険な状態です。まずは以下の重要な前提を一緒に確認しましょう。
社会保険加入の前提

雇用形態の名称に関わらず「一定基準」で自動発生する加入義務
法律上、社会保険への加入義務があるかどうかは「正社員かパートか」という雇用の名称(肩書き)では決まりません。
アルバイトやパートタイムでも、法律で定められた基準(労働時間や日数など)を満たしていれば、会社は必ず社会保険に加入させなければなりません。これは会社の「義務」であり、当事者の合意で除外することはできません。
大原則は3/4基準
加入が必要かどうかの大原則は、その職場で働く正社員の労働時間や日数と比べる「3/4(4分の3)基準」というものです。1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数の両方が、正社員の4分の3以上であれば、企業規模に関わらず加入対象になります(詳しくは後述します)。
「扶養内で働きたい」をそのまま受け入れる法的なリスク
「本人が扶養内で働きたいと言っているから」「パートだから手続きはいらない」という思い込みは通用しません。条件を満たしていれば、本人の希望に関わらず加入させる必要があります。
「パート=社会保険は不要」とは限りません。具体的にどのような基準で判断するのか、次の章で詳しく見ていきましょう。
【年金事務所の調査対策】自社のスタッフは大丈夫?加入義務を見極める2つの実務ステップ
社会保険の加入が必要かどうかの判断基準は、大きく分けて2つのステップがあります。
社会保険加入の判断ポイント

【大原則:3/4基準】週30時間が一つの目安
まず確認すべきなのは、そのパートさんの契約内容です。
- 1週間の所定労働時間
- 1ヶ月の所定労働日数
この療法が、通常の労働者(正社員など)の「4分の3以上」である場合は、企業規模に関わらず、すべての会社で社会保険への加入が義務付けられます。
例えば、正社員が週40時間労働の会社であれば、週30時間以上働くパートさんは全員加入となります。
【短時間労働者の適用拡大】週20時間・月額8.8万円以上のライン
「うちは週30時間未満だからセーフ!」と安心するのはまだ早いです。
3/4基準に届かなくても、一定規模以上の会社では、次の条件をすべて満たす短時間労働者も加入対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円以上)
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない(休学中や夜間学生などは対象に含まれます)
この基準が適用される「一定規模以上」の会社は、2024年10月以降、従業員数(厚生年金の被保険者数)51人以上の会社とされてきました。
ここが、これから大きく変わります。 次の章で詳しく見ていきましょう。
【ここが最重要】「51人の壁」も「106万円の壁」も、これから消えていきます
2025年6月に成立した年金制度改正法によって、これまでの前提が大きく変わることが決まりました。中小企業の経営者にとって、ここが今回いちばん押さえておきたいポイントです。
企業規模要件(51人以上)は段階的に撤廃へ
短時間労働者の加入対象となる会社の規模は、次のように約10年かけて段階的に引き下げられ、最終的には撤廃されます。
つまり「51人以上」という数字は、今は正しくても、来年(2027年10月)には早くも36人に下がる、動いていく基準です。
「うちは50人以下だから、短時間のパートさんは当面関係ない」と考えていた会社も、数年のうちに順番に対象へ入っていきます。
賃金要件(月8.8万円・106万円の壁)も撤廃予定
「月8.8万円以上(年収約106万円)」という賃金の条件も、この改正で撤廃されることが決まっています。時期は法改正の公布から3年以内とされていますが、もともと全国の最低賃金が一定水準に達することを見極めて判断するものとされており、その水準に既に達しつつあることから、3年を待たずに前倒しで撤廃される見込みです。
要するに、「51人」も「8.8万円」も、近い将来なくなっていく要件だということです。今の数字で「対象外」と判断していても、数年後には状況が変わっている可能性が高い、という前提で準備を進めておくのが安全です。
【リスク回避】過去2年分の保険負担を避けるため、今すぐ取りたい4つの実務
加入漏れによるリスクを回避し、従業員と良好な関係を保つために、会社として次の4つの注意点を確実に実行してください。
社会保険加入の注意点

【全スタッフの棚卸し】実際の労働時間と雇用契約内容のズレを総点検する
まずは、社内にいるすべてのパート・アルバイトスタッフの「実際の労働時間」と「契約内容」をリストアップし、現在の加入状況に漏れがないか再チェックしましょう。
自社の規模を把握し、次に対象になる時期を予測する
自社の従業員数が法改正の基準(51人以上など)に近づいていないか、超えていないか気を付けましょう。「まだ先」と思っていても、年を追うごとに36人・21人と下がっていく中で、思ったより早く順番が回ってくることがあります。
試用期間でも先延ばしにしない
「試用期間中だから」「更新するか分からないから」といった理由で手続きを先延ばしにすることはできません。要件を満たしたタイミングで、速やかに手続きを行いましょう。
年収の壁対策
パートさんの中には、いわゆる「年収の壁(配偶者の扶養)」により手取り額が減ることを意識して、社会保険に入りたくないという方も少なくありません。
しかし、加入は法律の義務です。会社としては「加入することで、将来もらえる年金が増える」「病気や怪我のときに傷病手当金が出る」といったメリットも含めて、事前に丁寧に本人へ説明し理解を得る努力が不可欠です。
【まとめ】社会保険の適用拡大を「優秀な人材の定着」につなげるために
社会保険の加入判定や、法改正への対応は、実務的に非常に複雑で「うちの会社の場合はどうなるの?」と頭を悩ませる経営者様が多い分野です。
また、従業員への説明の仕方を間違えると、優秀なパートさんの離職に繋がってしまうこともあります。
「今のうちの加入状況、本当にこれで合っているのかな…?」
「スタッフへの上手な説明の仕方を一緒に考えてほしい」
そう思われたらトラブルが大きくなる前に、ぜひ一度お気軽に当事務所までご相談ください。
私たちは、難しい法律の条文をそのまま押し付けるようなことはいたしません。皆さんの会社の経営状況やスタッフの皆さんの想いにしっかりと耳を傾け、会社にとって一番リスクがなく、関わる全員が納得できる具体的な解決策を、いつでも笑顔で分かりやすくご提案いたします。
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