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精神障害の労災申請が約8倍に急増。会社を守る「コンボ型」リスク対策とは?

「うちはアットホームな職場だから、労災なんて起きないだろう」
「ハラスメント対策は一応やっているから大丈夫」

もし、経営者や管理職であるあなたがそう思われているなら、この記事はあなたの会社を守るための重要な「転ばぬ先の杖」になるはずです。

こんにちは、大阪で弁護士をしております、吉田浩司です。
弁護士登録してから20年。多くの企業法務に携わる中で、私が最も危惧しているのが、近年急増している「精神障害(メンタルヘルス不調)による労災トラブル」です。

実は、精神障害に関する労災請求件数は、この20年で約8倍に激増しています。ひとたび労災認定されれば、社会的信用の低下はもちろん、場合によっては「数千万円〜億単位」の損害賠償責任を負うリスクさえあります。決して他人事ではありません。

本記事では、ウェビナーでお伝えした「精神障害の労災認定基準」のエッセンスを凝縮。法律の専門用語をできるだけ使わず、明日からの実務にすぐ役立つ「会社と従業員を守るための防衛策」としてわかりやすく解説します。

  • なぜ「小さなストレス」の積み重ねが命取りになるのか?(コンボ型のリスク)
  • 労基署と裁判所が見ている「決定的な違い」とは?
  • 今すぐできる、3つの具体的な対策

「弁護士の話は難しそう」というイメージを捨てて、ぜひ最後までお付き合いください。この知識があるだけで、防げるトラブルがあります。

賠償リスクは億単位?精神障害の労災申請が「約8倍」に急増している理由

まず、衝撃的な数字をご紹介します。
精神障害に関する労災申請件数は、この20年で約8倍に増えています。
労災の認定率(申請した事案が業務による発症と認められる割合)は昔から変わらず25%程度ですが、申請数そのものが激増しています。

もし労災と認定されると、会社には以下のようなリスクが発生します。

  • 社会的信用の低下:「労災が出るような粗悪な業務をしているのか」というレッテル
  • 組織への悪影響:従業員の離職、士気の低下
  • 巨額の損害賠償:場合によっては数千万円〜億単位の賠償責任(うつ自殺の場合)

これらを防ぐためには、「どこからが労災になるのか(認定基準)」を知っておくことが最大の防御策になります。

どこからが労災?認定基準となる「心理的負荷(ストレス)」の境界線を解説

労災(業務災害)と認められるには、ざっくり言うと以下の3つの条件が必要です。

  • 対象となる精神疾患を発症していること(うつ病、適応障害など)
  • 発症前、おおむね6ヶ月以内に「強い心理的負荷」がかかる出来事があったこと
  • 業務以外の心理的負荷(プライベートの問題や個人の既往歴)が主原因ではないこと

この中で最も重要なのが、2番目の「強い心理的負荷」です。
労基署は、ストレス(心理的負荷)を「弱・中・強」の3段階で評価しますが、労災になるのは心理的負荷が「強」と評価されたときだけです。

強い心理的負荷とは?

では、何が「強」にあたるのでしょうか?
ここが今回の最大のポイントです。

【要注意】残業+パワハラで一発認定。会社を潰しかねない「コンボ型労災」の恐怖

以下、わかりやすく説明するために、私独自の言い回しで2つのパターンをご紹介します。

① 一発アウト型

たった1つの出来事でも、それだけで「強」と判定されるものです。

  • 命に関わる事故:(同僚と共に)生死に関わる大怪我をした、業務で他人を死亡させてしまったなど。
  • 異常な長時間労働:発症直前の1ヶ月に160時間を超える時間外労働など。
  • 深刻なハラスメント:不同意性交、強制わいせつ等の犯罪的な被害を受けた。

これらは誰が見ても「そんな体験をすれば心を病んでしまうだろう」と判断されるレベルです。

② コンボ型(要注意!)

実は怖いのがこちらです。「中」レベルの出来事でも、複数の事情が重なると「強」に格上げされるパターンです。
労災認定基準には、細かいストレス評価表があります。

例えば、以下のようなケースは、単体ではそれぞれ「中」止まりですが、組み合わさると「強」と評価されて労災になります。

「中」×「中」=「強」

  • 例1:(1)2週間以上の連続勤務+(2)月80時間の残業
  • 例2:(3)執拗なパワハラ+(4)配置転換やリストラ

(1)交代要員がおらず、半日出勤などを加える2週間休みが取れず、しかも(2)1カ月の間80時間以上の残業があったなどの状況が例1に該当します。

また、(3)勤務態度が良くない問題社員に対し、行き過ぎた指導=パワハラが発覚したため部署を異動させたが、(4)異動先でも慣れない仕事でストレスを溜めて休職したというのが例2です。

さらに、(2)残業が月80時間を超える職場で、(3)執拗なパワハラが行われた際にも、労災が認定されます。

「ハラスメントがあったがそこまで酷くない」と会社が思っていても、そこに「長時間労働」や「配置転換」などの要素が加わると、合わせ技で労災認定される可能性があるのです。

ハラスメントは「初期対応」で決まる。労災認定を防ぐための実務対応

ハラスメントが「強」になるかどうかは、行為そのものの酷さだけでなく、「その後の会社の対応」が大きく影響します。

中にとどまるケース

  • 一回限りの不穏当な発言や身体接触。
  • 会社に相談したら、すぐに加害者が指導され、行為が止まった。

強になるケース

  • 行為が反復・継続している。
  • 会社に相談しても無視された、あるいは適切な対応がなされなかった。

つまり「会社が相談を受けた後にどう動いたか」が、労災になるかどうかの分かれ道になるのです。

労基署と裁判所の決定的な「ズレ」。司法が厳しく見る「安全配慮義務」とは

ここでもう一つ、重要な視点をお伝えします。

労働基準監督署(行政)が「労災ではない」と判断し、労災不支給決定を下しても、その後の裁判(司法)で「労災である」と真逆の判決(判断)が示されるケースがあります。

裁判所はここを厳しく見る

私の実感として、裁判所は労基署よりも「会社の事後対応」を厳しくチェックする傾向があります。
あるセクハラ事案では、会社が一応の注意指導を行っていたにもかかわらず、裁判所は労災を認めました。理由は以下の通りです。

  • 「被害者が何度も相談しているのに解決まで時間がかかりすぎている」
  • 「被害者の心理的負担を軽減する、迅速かつ適切な対応とは言えない」

「対応しました」という事実だけでは通用しません。「被害者が安心して働ける環境を取り戻せたか」という結果の改善まで求められるのです。

会社と社員を守る「労災予防策」。明日からできる3つの具体的アクション

これらを踏まえて、経営者や管理職の皆様に取り組んでいただきたいのは次の3点です。

1. 労働時間の客観的な管理

「定額残業代だから細かい時間は見ていない」はとても危険です。タイムカード等で実労働時間を把握し、定額残業代の基準(40時間程度までが多い)はもちろん、80時間を超えるような長時間労働が発生していないかチェックしてください。

2. ハラスメント相談窓口の実質化

窓口を作るだけでなく「相談があったら迅速に動く」体制が必要です。
相談者のプライバシーを守り、加害者・被害者双方からヒアリングし、必要であれば配置転換や懲戒処分をスピーディーに行うことが、会社を守ることにつながります。

3. 「コンボ」の警戒

「配置転換されたばかりの社員」「(他の社員の)リストラで業務量が増えた社員」などは、すでに「中」程度の負荷、いわばリーチがかかっています。
こうした社員に対して、労働時間の管理はもちろんのこと、周囲からの風当たりが強くなっていないか、孤立していないかなど「負荷の掛け算」が起きないように目を配ることが重要です。

「既往歴があれば労災にならない?」精神疾患と休職に関するQ&A

ウェビナー中にも頂いた、よくある疑問にお答えします。

Q. 精神障害で休職した場合、期間はどれくらいですか?

A. 個人差がありますが、厚労省の検討会報告によると、うつ病(未治療)の場合は6ヶ月〜2年程度、適応障害の場合は概ね6ヶ月以内と言われています。

Q. 過去にうつ病の通院歴がある社員が再発した場合、会社の責任になりますか?

A. 「既往歴があるから労災ではない」とは言い切れません。入社後に症状が安定していたのに、激務やハラスメントで悪化した場合は、業務が原因(労災)と認定される可能性が高いです。ただし、損害賠償の場面では、持病を考慮して金額が減額されることはあり得ます。

最後に

「労災認定基準」を知ることは、会社のリスク管理であると同時に、社員が健康に働ける環境づくりそのものです。
「うちは大丈夫かな?」「このケースはどう対応すべき?」など、ご不安な点がございましたら、一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。法律のプロとして、そして皆様のパートナーとして、最適な解決策を一緒に考えます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

あなたの会社を守る次のステップ

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