社員の給与カットは違法?減給のリスクと正しい進め方|経営者・管理職のための労務ガイド
社員数名〜数十名規模の中小企業経営者、または管理職の皆様へ。
「業績が厳しい時期、一時的に給与を調整できないか?」
「問題行動を繰り返す社員に対して、減給処分はできるのか?」
経営者にとって、固定費の大部分を占める「社員の給与」に関する悩みは尽きないものです。
しかし、これだけは最初にお伝えさせてください。社長の「直感」や「感情」だけで給与を下げると、高い確率で「違法(労働基準法違反)」となります。
TMG法律事務所の代表弁護士です。
「弁護士=敷居が高い」と思われるかもしれませんが、私は経営者の皆様が「これって大丈夫かな?」と気軽に相談できるパートナーでありたいと願っています。
安易な給与カットは、後々に「未払い賃金請求」や「損害賠償」といった泥沼のトラブルを招くだけでなく、社員との信頼関係を一瞬で崩壊させます。 そこで今回は、経営リスクを回避するために絶対に知っておくべき「給与カット(減給)の法的なルールと正しい手順」について、難しい法律用語を使わずに分かりやすく解説します。
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1. 「業績悪化」だけではNG!給与減額(不利益変更)に必要な「個別の同意」とは?
まず大原則として知っておいていただきたいのは、給与は労働契約における「最重要項目」であるという点です。
会社代表者には会社を経営する権限がありますが、それによって何でも自由に決められるわけではありません。特に給与の減額(不利益変更)については、労働契約法や労働基準法で厳しく守られています。
給与は労働契約の最重要項目

会社側の一方的な変更はNG
「今月は売上が落ちたから、全員一律で〇%カットね」
このように、会社側が一方的に給与を下げることは、原則としてできません。
必要なのは「真意に基づいた同意」
給与を減額するためには、社員一人ひとりから「個別の同意」を得る必要があります。
ここで重要なのは、ただハンコをもらえば良いわけではないということ。「嫌なら辞めろ」といった圧力下での同意や、十分な説明がないまま書かされた署名は、裁判になった場合に「無効」と判断される可能性が高いです。
「自由な意思に基づく同意」があって初めて、減給は法的に認められます(ただし、一般的に「従業員が減給に納得し応じる」状況はかなり限られるので、正当化するのは相当難しいとお考え下さい。)
2. 懲戒処分でも「全額カット」は不可?労働基準法第91条が定める「減給の上限」
では、社員が就業規則違反をした場合や、ミスを繰り返した場合の「懲戒処分としての減給」はどうでしょうか?
「悪いことをしたのだから、給与を大幅にカットしてもいいはずだ」と思われるかもしれませんが、ここにも法律のブレーキがかかります。
罰としての減給にも厳しい制限

労働基準法第91条では、制裁(懲戒)としての減給について、以下の厳しい上限(ダブルリミット)を定めています。
- 1回の額が、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
- 総額が、一賃金支払期(通常は月給)の賃金総額の10分の1を超えてはならない
具体例で考えてみましょう
例えば、1日の稼ぎ(平均賃金)が1万円の社員がいるとします。
この社員がミスをしたとして減給処分にする場合、1回の事案で減らせるのは最大でも「5,000円(半額)」までです。※実際には5000円にも満たないことが多い。
「君のミスで10万円の損害が出たから、減給処分として来月の給与から10万円引くぞ」というのは法律上できません(※そもそも、同意のない給与天引きである点でも違法です。)。
感情的な判断で大幅な減給を行うと、逆に会社側が労基法違反を問われることになります。
3. 訴訟・未払い請求を防ぐ!給与変更前に必ず確認したい「3つの鉄則チェックリスト」
給与に関する変更は、社員の生活に直結するため、非常にデリケートな問題です。
後々のトラブル(未払い賃金請求や損害賠償請求)を防ぐために、実行前には以下の3点を確認してください。
給与カットのルールまとめ

POINT 01:減給の必要性を、十分に説明しましたか?
なぜその措置が必要なのか、経営状況や処分の理由を誠実に伝え、理解を求めるプロセスが不可欠です。
POINT 02:同意書など、書面で合意を得ていますか?
「言った・言わない」のトラブルを避けるため、必ず書面を残しましょう。
POINT 03:懲戒処分の場合、就業規則に根拠がありますか?
そもそも就業規則に「どのような場合に減給となるか」が明記されていなければ、処分自体が無効になる可能性があります。
最後に:安易な給与カットは信頼を失います
「少しならバレないだろう」「みんな我慢しているから」
そんな軽い気持ちで行った給与カットが、結果として優秀な人材の離職や、会社全体の士気低下を招くことは少なくありません。
私たち弁護士は、何も「会社を取り締まる」ために存在しているわけではありません。
会社と社員、双方が納得して働ける環境を守るために、法律というルールブックを使ってサポートするのが私たちの仕事です。
「この給与変更、法的に問題ないかな?」
「社員にどう説明すれば納得してもらえるだろう?」
そう迷ったときは、手遅れになる前にぜひご相談ください。
難しい法律用語ではなく、あなたの会社の状況に合わせた分かりやすい言葉で、解決策を一緒に考えさせていただきます。
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