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雇用トラブルは「労働条件通知書」で9割防げる。弁護士が教える有期雇用の見直し必須項目

こんにちは。弁護士の吉田浩司です。
突然ですが、皆さんは弁護士と聞くと、どんなイメージをお持ちですか?
「なんだか難しそう」「怖い」「料金がいくらかかるか分からない」…。
もしかしたら、そんな少しネガティブなイメージがあるかもしれません。
私は、そんな弁護士のイメージを払拭し、「気軽に相談できて安心できる」存在でありたいと心から願っています。
この記事は、日々奮闘されている中小企業や零細企業の経営者・管理職の皆さまに向けて開催したウェビナーを、読みやすく記事としてまとめたものです。

今回のテーマは、労務トラブル予防の要とも言える「有期雇用(契約社員)」と「労働条件通知書」の2つです。

  • 「問題のある社員がいても、なかなか解雇できなくて困っている…」
  • 「”無期転換ルール”って、具体的にどう対応すればいいの?」
  • 「労働条件のことで、後から社員と揉めたくない」

そんな現場のリアルな悩みを解決し、トラブルを未然に防ぐための「実践的な知識」を、専門用語はなるべく使わずに、具体例を中心にお届けします。

🧐 なぜ「契約期間」の設定が重要なのか?

そもそも、なぜ正社員(無期雇用)ではなく、わざわざ「契約期間」を設ける(有期雇用)必要があるのでしょうか。主な理由は2つあります。

理由①:いざという時の「解雇」は、会社が思うよりずっと難しい

まず大前提として、日本の法律では、一度正社員として採用した従業員を解雇するハードルは非常に高いです。
これは「解雇権濫用法理」というルールで厳しく守られているためです。会社が「能力が低いから」「態度が悪いから」といった理由で一方的に解雇しても、裁判になれば「不当解雇」として無効と判断されるケースが少なくありません。
もし解雇が無効になれば、会社は解雇後の裁判期間中の給与を遡って全額支払う(これを「バックペイ」と言います)必要があり、経営に深刻なダメージを与えかねません。
この「解雇が難しい」という現実への対策の一つとして、「試用期間」や「有期雇用契約」といった「期間の設定」が活用されるのです。

理由②:「労働条件の明示」は法律上の義務

もう一つの理由は、コンプライアンス(法令遵守)の観点です。
従業員を雇い入れる際、会社は「契約期間」「給与」「働く場所」「仕事内容」といった労働条件を明示することが法律で義務付けられています。
この義務をきちんと果たすことは、単に法律を守るだけでなく、後々の「言った・言わない」のトラブルを防ぐためにも不可欠です。

⚖️ 「試用期間」と「有期雇用」、どう使い分ける?

「期間を区切る」方法として、代表的な「試用期間」と「有期雇用」の違いと、それぞれの注意点を整理しましょう。

「試用期間」とは?

正社員(無期雇用)として採用することを前提に、最初の数ヶ月間(例:3ヶ月~6ヶ月)を「お試し期間」とする制度です。

活用場面

  • 新卒・中途採用で、面接だけでは分からなかった適性や能力を見極めたい時。
  • もし重大な経歴詐称や、著しい能力不足、深刻な協調性の欠如などが発覚した場合、「本採用を拒否する」という形で契約を終了できる可能性があります。

注意点

  • 試用期間中だからといって、簡単に本採用を拒否できるわけではありません。正社員の「解雇」よりはハードルが低いとされますが、合理的な理由がなければ無効になるリスクがあります。
  • 「見られている」と意識して、試用期間中だけ頑張る人もいます。期間が終わった途端に問題行動が出始める…というケースも少なくありません。

「有期雇用(契約社員)」とは?

「1年間」「6ヶ月間」というように、あらかじめ雇用期間を定めて契約する形態です。いわゆる「契約社員」です。

活用場面

  • 人材需要の調整: 観光業やリゾート地など、繁忙期と閑散期の差が激しい業種で、必要な時期だけ人材を確保したい場合。
  • 人材の選抜: 人気の職業や高い成果が求められる職種(タレント、スポーツ選手、営業社員など)で、まずは有期契約で様子を見て、実績次第で更新や正社員化を判断したい場合。
  • 問題社員対応(実態として): 建前とは別に、正社員解雇のリスクを避けるため、まずは有期雇用で採用し、もし問題があれば「契約期間満了(雇い止め)」という形で契約を終了させる、という目的で使われることも多いのが実情です。

注意点

  • 更新作業の煩雑さ: 契約期間が来るたびに、更新するか否かの判断と、書面の取り交わしが必要になり、管理コストがかかります。
  • 労働者側の不安: 働く側にとっては「いつ契約が終わるか分からない」という不安が常につきまといます。これがモチベーション低下や、より条件の良い会社への早期離職につながる可能性があります。
  • 「雇い止め」も簡単ではない: 何度も契約を更新していると、労働者側には「次も更新してもらえるだろう」という期待が生まれます。その期待が合理的だと判断される場合、会社側が一方的に「雇い止め」をすると、解雇と同じように「無効」と判断されるリスクがあります(雇い止め法理)。

⚠️【最重要】基本と実践。「無期転換ルール」を徹底解説

有期雇用を活用する上で、経営者が絶対に知っておかなければならないのが、この「無期転換ルール(通称:5年ルール)」です。

「無期転換ルール」とは?

同一の会社で、有期労働契約が更新を繰り返して通算5年を超えた場合、労働者が希望すれば、会社は拒否できず、無期労働契約(正社員など)に転換しなければならない。
これがルールの骨子です。
ポイントは、労働者側からの「申し込み」によって権利が発生するという点です。労働者が「私はこのまま契約社員でいいです」と言うなら、会社が無理に無期転換させる必要はありません。

例外

60歳定年後の「継続再雇用」の高齢者
高度な専門知識を持つ人(弁護士など)や、特定のプロジェクトのために期間限定で雇われる人
→ これらのケースでは無期転換ルールは適用されません。

  • (補足)通算5年がリセットされる「クーリング期間」は、原則として6ヶ月以上の空白期間が必要です。数日、数週間を空けて、再雇用を繰り返しても通算期間はリセットされないため、このルールを逃れるのは現実的ではありません。

実践例①:転換権が「発生した後」に、雇い止めしたい場合

状況

すでに通算5年を超え、無期転換権を持っている契約社員がいる。会社としては、次の契約満了で「雇い止め」したい。
この時、非常に悩ましい問題が起こります。
2024年4月の法改正により、会社は無期転換権が発生する契約更新のタイミングで、「あなたには無期転換権がありますよ」と明示する義務が課されました。
「辞めてほしい」と思いながら「正社員になる権利がありますよ」と伝えなければならないのです。

対策

この場合、まずは「契約不更新通知書(雇い止め通知書)」を先に渡すことが考えられます。
法律上、雇い止めの「理由」は、労働者から求められない限り、最初から会社側が進んで示す義務はありません。
そのため、まずは「契約期間満了をもって更新せず終了します」という事実のみを通知します。
もし労働者から「なぜですか?」と理由を求められたり、「無期転換権を使いたい」と言われたりすれば、その時点で誠実に対応する必要がありますが、何も言われなければ、そのまま契約終了となる可能性もあります。

実践例②:転換権が「発生する前」に、雇い止めしたい場合

状況

現在通算4年目の契約社員。次の1年契約を更新すると通算5年になり、無期転換権が発生してしまう。それを防ぐために、今回の4年満了のタイミングで「雇い止め」したい。
いわゆる「5年目前切り」と呼ばれる対応です。
「無期転換権の発生を回避するため」という目的での雇い止めが許されるのか、という論点です。

結論

裁判例では、無期転換権の発生を回避すること自体が、直ちに違法・無効になるわけではないとされています。
しかし、無期転換権という労働者の権利を目前で奪う形になるため、もし裁判などで争われれば、会社側には厳しい判断が下されるリスクがあると言えます。

経営者が今すぐ取るべき対策

このような悩ましい事態を避けるため、経営者が今からできる対策は2つです。

最初から「更新上限」を設定する

これから有期雇用で採用する場合は、労働条件通知書に「契約更新は通算4年まで」などと、5年を超えない範囲で上限を明記しておくことが最も有効です。

優秀な人材は早期に正社員化する

「この人には長く働いてほしい」と思う優秀な人材であれば、5年を待たず、早めに会社から「正社員になりませんか?」と声をかけるべきです。

📊一番難しいのは? 契約終了の難易度ランキング

参考までに、私(吉田)の感覚で、従業員に辞めてもらうことの難易度を並べてみました。(※個別の事案によって難易度は変動します)

簡単

  • 最初から「更新上限(例:3年)」が設定された有期契約の期間満了
  • 初回~数回程度の更新での雇い止め
  • 試用期間満了による本採用拒否(※理由による)

難しい

  • 更新への期待が高まっている有期契約の雇い止め
  • 無期転換ルール発生後の有期契約の雇い止め
  • 正社員(無期雇用)の解雇

最も難しい

  • 有期契約社員の「契約期間の途中」での解雇
    (※会社のお金を横領した、などよほど重大な理由がない限り、ほぼ不可能です)

✍️ トラブル防止の要!「労働条件通知書」をアップデートしよう

冒頭で述べた①②のうち、第二の柱、労働条件の明示のためには、「労働条件通知書」が重要です。先ほど「理由②」で触れた、法律上の義務を果たすための書面です。

なぜ「労働条件通知書」が会社を守るのか?

この書面により労働条件を示しておくことは、労働者はもちろん、会社(使用者)側にも大きなメリットがあります。

労働者のメリット

「給与はいくらか」「休日はいつか」が書面で確約されるため、安心して働ける。(「聞いていた時給と違う…」といったトラブルを防げます)

会社のメリット

将来の配置転換: 「将来的には、別の支店や別の業務に移ってもらう可能性もある」ということをあらかじめ書いておけば、いざ必要になった時にスムーズに命令しやすくなります。

賞与・退職金: 支給しないのであれば「なし」とハッキリ書いておくことで、労働者からの過剰な期待や「払ってもらえるはずだ」という将来のトラブルを防げます。

「通知書」と「契約書」、どちらが良い?

労働条件通知書ではなく、労働契約書を使う企業も多い。よくある質問ですが、大きな違いは「労働者の署名(サイン)をもらうかどうか」です。

  • 労働条件通知書: 会社が一方的に「通知する」書面。法律上の義務はこれで果たせます。
  • 労働契約書: 会社と労働者が双方合意した証として「署名・押印」する書面。

運用のコツ

署名をもらい忘れるリスクや、「書類にサインすること自体」に抵抗を示す社員がいる職場を考えると、まずは「労働条件通知書」をきちんと作成し、渡した証拠(受領サイン又はメールやチャットで送付履歴を残す)を確保しておけば足ります。
ただし、賃下げなど労働者にとって不利な条件変更をする場合は、必ず「契約書」形式で明確な同意(署名)が必要です。

要注意!「形式」と「実態」がズレていませんか?

最も危険なのが、この「ズレ」です。

  • 通知書には「残業代は別途支給」と書いてあるのに、実態はサービス残業が横行している。
  • 通知書には「有給休暇あり」と書いてあるのに、実態は忙しかったり、管理職が渋るので誰も取れない雰囲気がある。
  • 「労働条件通知書」と、会社全体のルールである「就業規則」の内容が食い違っている。

書面だけキレイに整えても、実態が伴っていなければ、労働者の不満は「書面がない」ときよりも高まります。必ず「書面」と「実態」を一致させるよう注意してください。

📝【2024年法改正対応】労働条件通知書の「実践的な書き方」

厚生労働省の雛形をベースに、特に経営者が注意すべき「書き方」のポイントを解説します。

① 契約期間・更新(有期雇用の場合)

  • 契約の更新の有無: 「更新する場合があり得る」を選んでください。「自動的に更新する」を使ってはいけません!せっかく有期を選んでいるのに、雇い止めの機会を自ら放棄することになります(無意識に「自動更新」している会社は多い。)。
  • 更新上限: 先ほど説明した通り、無期転換ルール対策として「通算契約期間は〇年まで」と設定することを強く推奨します。

②【法改正】無期転換ルールの明示

有期契約の場合、「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングで、会社がその旨を明示するとの欄が新設されました。

③【法改正】就業場所・業務の「変更範囲」

トラブルになりやすい配置転換に備えるため、「雇入れ直後」の場所・業務と、「変更の範囲」を分けて書く欄が新設されました。
将来的に転勤や部署異動の可能性があるなら、「変更の範囲」の欄には「会社の定める場所」「会社の定める業務」と、広く記載しておくことが会社を守ることにつながります。

④【法改正】相談窓口(ハラスメント等)

セクハラやパワハラなど、職場の問題に関する「相談窓口」を明記することが義務化されました。
小さい会社では代表者自身が窓口になることも多いですが、可能であれば顧問弁護士や社労士など、中立的な第三者を窓口に設定することも有効です。

⑤【法改正】就業規則の周知方法

「就業規則を作ったけれど、社員に見せていない」という状況をなくすため、社員が「いつでも就業規則を見られる状態」にする方法(例:社内共有フォルダに格納、いつでも閲覧できる場所に備え付け)を記載する欄が新設されました。

⑥ 書かないと損する項目(賞与・退職金)

賞与(ボーナス)や退職金がない場合は、必ず「なし」と明記してください。
空欄にしておくと、「あるのが当たり前だと思った」というトラブルになりかねません。
もし支給する可能性がある場合でも、「必ず支給する」ではなく、「会社の業績等を勘案し、支給することがある」といった表現に留めましょう。

⑦ 書いてはいけない項目(違法・無効になる記載)

以下のような内容は、たとえ書いて労働者がサインしたとしても、法律上「無効」となります。それどころか、会社の評判を著しく下げる(ブラック企業認定される)リスクしかありません。

  • 「解雇されても一切異議を述べない」
  • 「会社に損害を与えたら給料から天引きする」(※法律上の相殺等を除く)
  • 「有給休暇はなしとする」
  • 「残業代は一切支給しない」

💡 まとめ:トラブル予防は「最初が肝心」

長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
本日の重要なポイントを3つにまとめます。

解雇回避策としての有期雇用には限界がある

「正社員の解雇は難しい」からと有期雇用を使っても、「雇い止め法理」や「無期転換ルール」という制限があります。メリットとデメリットを正しく理解しましょう。

労働条件通知書は「最新版」で「実態」と一致させる

法律は頻繁に変わります。2024年の法改正(変更範囲、無期転換明示、相談窓口など)に対応した最新の書式を使い、かつ、書かれた内容が現場できちんと守られているか(=実態とズレていないか)を必ずチェックしてください。

「書面」を整えることが、会社と従業員双方を守る

ルールを明確に書面化することは、一見すると面倒に思えるかもしれません。しかし、それこそが将来の無用なトラブルを防ぎ、会社と従業員の双方が安心して力を発揮できる環境づくりの第一歩となります。
法律問題は、「知っているか、いないか」で結果が大きく変わることが本当に多くあります。

「うちの労働条件通知書、これで大丈夫かな?」
「ちょっと気になる社員がいるんだけど…」
少しでも「あれ?」と思うことがあれば、問題が大きくなって手遅れになる前に、どうぞお気軽に、私たちのような専門家を頼ってください。

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