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【判例で学ぶ】問題社員対応の法的リスクと実践ガイド|配転・休職命令から紛争解決まで徹底解説

こんにちは。弁護士の吉田浩司です。
弁護士というと、「難しい」「怖い」「料金がわからない」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

私は、そのような弁護士の悪いイメージを払拭し、気軽に相談できて安心できる弁護士でありたいと思っています。
このたび、経営者や人事担当者の皆様向けに開催したウェビナー「問題社員対応の基礎」の第2回目の内容を、ポイントを絞って記事にまとめました。

第1回では「問題社員対応の5ステップ」の概要をお話ししましたが、今回は特にご相談の多い「配転命令」「休職後の退職」「紛争解決」という3つのテーマについて、具体的な事例を交えながら深掘りします。
少し長くなりますが、実践的な内容ですので、ぜひお付き合いください。
(※本記事はウェビナーの内容を書き起こしたものです)

講師(私)について

少しだけ自己紹介をさせてください。
私は大阪弁護士会に所属しており、弁護士としては今年で20年目になります(2004年に司法試験に合格し、1年半の司法修習を経て、2006年に弁護士登録しました)。

  • 初めての労働事件(労働者側): 弁護士1年目に担当した事件です。中学時代の友人が自動車工場を突然解雇された事案でした。当時は解雇予告手当の支払いを求めて交渉し、スピーディーに解決しました。
  • 印象深い事件(会社側): 弁護士3年目頃、メンタルの問題で休職を続けた方の事案です。当時は今ほど休職制度が整備されておらず、2年以上にわたり会社の代理人として様々な対応を行いました。

このように、労働者側・会社側双方の立場を経験しているのが私の強みでもあります。

📌 前回のおさらい:「解雇」は最終手段

本題に入る前に、前回の復習です。
問題行動をとる社員への対応は、ステップを踏むことが重要です。

  • 指導・改善: まずは問題行動を具体的に指導し、改善を促す。
  • 配置転換・退職勧奨: それでも改善が見られない場合、職場を変える(配転)か、辞めてもらう(退職勧奨)を検討する。
  • 解雇: 最終手段。

なぜ、いきなり解雇してはいけないのか。
それは「解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)」という法律のルールがあり、日本の法律では解雇が有効と判断されるハードルが非常に高いからです。
だからこそ、会社(経営者)は解雇を避けるための手段として「配転命令」や「退職勧奨」を適切に活用する必要があるのです。
今回は、まずこの「配転命令」について詳しく見ていきましょう。

1. 配転命令:解雇を避けるための有力な選択肢

「配転命令」は、問題社員対応において非常に有効な手段となり得ます。

📖 事例:事務職Xさんのケース

事務職のXさん(入社2年目・正社員)は、

  • 計算ミスが多く、周りに迷惑をかけている
  • 上司の指示を聞かず、一人で判断してしまう
  • 業務中の私語が多い

経営者としては「解雇するほどではないが、今の部署では活躍できそうにない」と判断。
→ 同一市内の支店で「営業職」として働いてもらうことはできないか?

「配転命令」とは?

「配転命令」とは、従業員の配置の変更であり、職務内容(仕事内容)または勤務場所が相当の長期間にわたり変更されるものです。
いわゆる「異動」や「転勤」を、会社の業務命令として行うことだとご理解ください。

⚖️ 配転命令が有効になる4つの要件

会社が一方的に配転を命じるには、次の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 就業規則上の根拠があること
  2. 業務上の必要性があること
  3. 労使の間で地域や職種を限定する合意がないこと
  4. 権利の濫用(いやがらせ等)でないこと

特に重要な「2」「3」「4」について解説します。

② 業務上の必要性

「その人でなければダメ」といった高度な必要性までは求められません。
過去の判例(東亜ペイント事件)でも、

  • 労働力の適正配置
  • 業務の能率増進
  • 労働者の能力開発、勤務意欲の高揚

など「企業の合理的な運営に寄与する点」が認められれば、業務上の必要性はあると広く判断されます。今回のXさんのように「今の事務職ではミスが多いから、別の適性(営業職)を試してもらう」というのも、合理的な運営の範囲内と認められやすいです。

③ 地域・職種限定の合意がない

これが非常に重要です。

  • 正社員(総合職など): 職種や勤務地が限定されていない場合、配転させやすいと言えます。
  • パート・アルバイト: 「〇〇店のキッチン担当」のように、採用時に職種や場所を限定して雇い入れた場合、一方的に「明日からB店の清掃をしろ」と命じることは非常に困難です。

もし限定がある方を異動させる場合は、命令ではなく、本人の「同意」を取り付ける必要があります。

④ 権利の濫用でない

権利の濫用と判断されるのは、主に2つのケースです。

  1. 不当な動機・目的がある場合
    「あいつが気に入らないから、遠くに飛ばして辞めさせよう」といった、退職に追い込むための「いやがらせ」目的の配転は、無効になります。
  2. 労働者に著しい不利益が生じる場合
    過去の判例では「要介護の母親がおり、転勤すると介護ができなくなる」という従業員に対する転勤命令が、生活上の不利益が著しいとして無効と判断された例があります。

2. 休職後の退職:会社が知るべき「潮目」

次に、問題社員が休職してしまった場合の対応を説明します。
最近、このような例が激増しており、会社にとって、問題社員対応の「潮目」となります。

📖 事例:配転命令のその後…

事務職から営業職に配転になったXさん。
1ヶ月後、休みがちになり、3日連続で欠勤。
「適応障害」という診断書を会社に提出し、「しばらく休ませてほしい」と連絡があった。
あわせて「傷病手当金」の申請をしたいと申し出があった。
経営者としては「復帰の目処が立たないなら、早く辞めてほしい…」と考えている。

「傷病手当金」とは?

まず、この「傷病手当金(しょうびょうてあてきん)」を理解しておく必要があります。

  • 誰が払う?: 会社ではなく、健康保険組合(協会けんぽ等)です。
  • いくら?: おおよそ給与の3分の2程度。
  • いつまで?: 最大で1年6ヶ月。

従業員にとっては非常に助かる制度ですが、会社にとっては、従業員が休んでいる間も社会保険料の会社負担分が発生し続けます。また、その人が休んだことによる人手不足をカバーする体制(一時的な残業増加、派遣採用、異動、新規採用など)も考えねばならず、負担が残ります。

会社の対抗策:「休職命令」

この「いつ戻るかわからない」という不安定な状態を解消する手段が「休職命令」です。

【休職命令の仕組み】

法律上の制度ではなく、会社の「就業規則」に基づくルールです。

  1. 会社が「あなたは病気なので、〇月〇日まで休職を命じます」と期限(例:3ヶ月、6ヶ月)を切って命令する。
  2. その期間中に復帰できなければ、期間満了をもって「(自動的に)退職扱い」とする。

これは「解雇」とは異なります。一定期間の猶予を与えた上で、復帰できない場合は雇用契約が終了するというルールをあらかじめ設定しておくことで、会社は「いつまでも席を空けておく」リスクを回避できます。
※注意点: これも「就業規則」に規定がなければ使えません。

🚨 休職後に起こる3つのパターン

休職命令を出した後、あるいは従業員が自主的に休みに入った後、会社は次の3つの展開を想定しておく必要があります。

パターン1:【円満】本人が退職を申し出る

休職期間の満了時や、傷病手当金の受給が終わった頃に「やはり戻れないので辞めます」と連絡が来るケース。
これは最もスムーズな終わり方です。会社は退職手続きを進めます。

パターン2:【紛争】「パワハラで鬱になった」と主張される

「私が休んだのは上司のパワハラが原因だ(労災うつだ)」として、会社に慰謝料や給与の補償を求めてくるケースです。

会社の対応:

絶対に事実確認が必要です。
もしキツいパワハラが原因で精神障害になったという事実があった場合、それは「業務災害(労災)」にあたります。
労災が認定されると、会社都合で病気にさせたのですから、休職期間満了で退職させることはできなくなります。
ここは紛争性が高いため、すぐに弁護士に相談すべきです。

パターン3:【判断】本人は「復帰したい」が、会社は「不安」

本人は「治りました、復帰します」と言っているが、面談してみるとどうも調子が悪そうで、復帰させてもまたミスをしたり、症状が悪化したりしそうなケース。

会社の対応:
  1. 主治医の意見を詳しく聞く: 「大丈夫」という診断書だけでなく、「会社のどの業務が、どの程度なら可能なのか」を具体的に確認します。
  2. 産業医の面談を受けさせる: 会社の指定する医師(産業医)に、中立的な立場で「復職可能か」を判断してもらうのが最も確実です。
  3. リハビリ勤務(試し出社): 主治医と産業医の意見が割れるなど判断に迷う場合、いきなり通常勤務に戻すのではなく、「週2回、1日4時間」といった短時間の「リハビリ勤務」から始めて、様子を見る方法もあります。

3. 紛争解決:トラブルが大きくなる前に

最後に、こうした問題が「紛争」になった場合の解決手段についてです。
労働紛争は、基本的に「会社のアクション(指導、配転、解雇)に対し、労働者が不服を申し立てる」という形で発生します。

紛争のエスカレーション

労働者の申し立て手段は、軽いものから重いものまで様々です。

  1. 本人との直接交渉
  2. 労働組合を通じた交渉(団体交渉)
  3. 弁護士を通じた交渉
  4. 裁判所の手続き(労働審判)
  5. 裁判所の手続き(訴訟)

一般的に、リストの下に行くほど、解決までの「期間」が長期化し、「コスト(弁護士費用や解決金)」も高くなる傾向にあります。

😱 事例1:30万円の要求を放置したら、140万円になった

  • 経緯: 会社が従業員を解雇。
  • ① 労働者の要求: 本人から「解雇予告手当と未払い残業代、合計30万円を払え」と要求があった。
  • ② 会社の対応: 「あいつに払う金はない」と無視(放置)した。
  • ③ 結果: 労働者が「労働審判」を申し立てた。
  • ④ 裁判所の判断: 裁判所から「解決金として140万円を払ってはどうか」と示された。

これは典型的な「初動ミス」です。
最初に30万円の要求が来た時点で弁護士に相談し、適切な対応(例えば、清算条項や守秘義務を含む合意書を交わした上で支払うなど)をしていれば、140万円+弁護士費用という大きなコストを払わずに済んだ可能性が高いです。

💸 事例2:400万円の請求に対し、あえて50万円を払った

  • 経緯: 勤務態度の悪い社員に退職勧奨(辞めてほしいと促した)。
  • ① 労働者の要求: 弁護士を通じて「パワハラだ」「違法な退職勧奨だ」「未払い残業代がある」として、慰謝料など合計400万円を請求してきた。
  • ② 会社の対応: すぐに弁護士に依頼。社内調査をした結果、労働者の主張(パワハラ等)を裏付ける証拠はなかった。
  • ③ 結果: 裁判になっても会社が勝てる見込みは高かったが、最終的に「和解金50万円」を支払って解決した。

なぜ、勝てる見込みなのに50万円を払ったのか?
これは「紛争再発防止」のためです。
一部の労働者には他責思考の方がおられます。そのような方は、たとえ裁判で自分の言い分が認められなかったとしても納得せず、会社への恨みを持ち続けます。
その結果、長期間にわたりSNSで悪口を書かれ続けたり、ありもしない噂を吹聴されたり執拗に執着され、いつまでも対応を強いられるという「二次被害」が発生するリスクがあります。
そうした将来的なリスクも踏まえ、(違法性を認めたわけではないが)「今後の生活支援のため」といった名目で一定の解決額を支払い、その代わり

  • 「今後一切の請求をしない」
  • 「本件の内容を第三者に漏らさない(口外禁止条項)」

という約束を合意書で交わした方が、会社にとってトータルで得策となる場合があるのです。

🔑 本日のまとめ

今回のウェビナーのポイントを4つにまとめます。

配転命令は活用できる

解雇が難しい日本の法律下で、配転命令は有効な選択肢です。ただし、大幅な職種変更や転勤は抵抗も大きいため、慎重に行う必要があります。

休職は「潮目」である

問題社員が指導や退職勧奨の過程で休職に入ることは非常に多いです。この「潮目」をどう乗り切るか。「休職命令」の活用を検討し、労災(パワハラ)主張や復職のパターンを想定しておきましょう。

紛争は早期対応がカギ

労働紛争は、放置するとコストも時間も膨れ上がります。労働者から何らかのアクションがあったら、無視せず、早い段階で弁護士に相談し、落としどころを探るのが賢明です。

すべては「就業規則」から

今回解説した「配転命令」「休職命令」も、その根拠はすべて「就業規則」にあります。
就業規則が整備されていない、あるいは昔作ったまま見直していない、という会社は、今すぐに整備・改定することをお勧めします。

難しい法律の話が続きましたが、経営者や人事担当者の皆様が「問題社員」に悩む時間を少しでも減らし、安心して本業に集中できるお手伝いができれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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